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NAD+依存性とエネルギーバランス酵素を活性化することによって、マウスの寿命を大幅に延ばした

SIRT 6の生産量が増えると寿命が約20%延長され、身体活動が改善され、高齢者の衰弱が緩和される。

ハイライト:

・遺伝子操作によってSIRT 6タンパク質を過剰に生成したマウスの寿命と身体機能は明らかに改善された。

SIRT 6は、肝細胞のエネルギーとグルコース糖の生産量を増加させ、身体活動、寿命、生存率を改善させる。

「銀の波」と呼ばれている全世界の人口の高齢化に伴い、加齢に伴う疲労や虚弱さを特徴とする状態など、多くの健康に関わる課題がもたらされている。研究では、ダイエットと代謝が寿命に影響する重要な要因であり、健康的な老化を促進するための適切なレギュレーターである。科学者は、SIRT 6という蛋白質が老化、肥満、インシュリン感度を調節できることを発見したが、それが具体的にはどのように調節するのかについては、老化中の健康維持に向けた研究が進んでいる。

イスラエルのバイアラン大学のコーエン研究員らはSIRT 6タンパク質を駆動することでマウスの寿命を約20%延長したことが明らかになった、という研究結果を「Nature Communications」に発表した。また、高齢者では遺伝子操作によってSIRT 6の生産量を増やし、肝臓と脂肪組織のエネルギー産生バランス(恒常性)を最適化して、衰弱を遅らせ、病気なしで(健康期間)寿命を延長することを示している。

コーエン教授は記者会見で、「これまでの研究結果と組み合わせると、SIRT 6が健康な老化のスピードをコントロールしていることが示されている。人間の体でそれを活性化する方法をを探せば、寿命を延ばすことができる。そのうえ、健康や経済に大きな影響を及ぼす可能性があります」と発言した。

Sirtuinsとは何か?

Sirtuinsは、機能を発揮するために、ニコチンジヌクレオチド(NAD+)という生命維持分子を必要とするタンパク質である。Sirtuinsが十分なNAD+持つとき、DNAの健康と細胞代謝を維持する上で重要な役割を果たす。7つのSirtuinsのうちの2――SIRT 1SIRT 6は代謝と老化を調節できる。それゆえ、コーエンたちはこの二つのSirtuinsのうちょのどちらが老化で最も重要なのか、また彼らが相乗的に働くかどうかを明らかにしたい。

SIRT 6レベルの上昇は寿命を著しく延長する

SIRT 1SIRT 6が老化と寿命における相互作用を調べるために、イスラエルの研究チームは遺伝的に改良されたマウスをより多くのSIRT 1SIRT 1遺伝子組み換えマウス)とSIRT 6SIRT 6遺伝子組み換えマウス)または両方(SIRT 1SIRT 6遺伝子組み換えマウス)を同時に生成する。彼らはこのマウスの寿命を比較するために40ヶ月にわたる追跡研究を行った。その結果、オスとメスSIRT 6遺伝子組み換えマウスの平均寿命は、非遺伝子組より約27%SIRT 1組よりも約15%長かった。SIRT 6遺伝子組み換えマウスとSIRT 1+SIRT 6遺伝子組み換えマウスの寿命は明らかに違っていないので、コーエンたちはこの2つのタンパク質が相乗的に寿命を延ばすことはないが、SIRT 6の過剰生産自体は寿命を延ばすことができると結論づけた。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34050173/ SIRT 6タンパク質レベルの上昇はマウスの寿命を約20%延ばした。こちらの図は、オス(左)とメス(右)のマウスに、SIRT 1(赤)とSIRT 6(緑)とその組み合わせ(紫)の寿命を示している。オス(左)とメス(中)のマウスは遺伝子組み換え後、SIRT 6タンパク質のレベルは増加してから、寿命は明らかに長くなった。非遺伝子マウス(WT;青)に比べて、SIRT 1レベルの変化は、平均寿命(グラフの横の括弧の日数)を著しく延長していないだけである。両性間のまとめ結果(右)によると、SIRT 6は平均寿命を約21.4%延長した。中位の寿命は括弧に表示される。

SIRT 6レベルの増加は年齢による虚弱が減少する

SIRT 6タンパク質レベルの増加が健康に役に立つかどうかを調べるために、コーエンと同僚は体能表現の指標となる3つの老年遺伝子組み換えマウスが回転する車輪に走った距離を比較した。遠くに走れば走るほど、虚弱さが低くなる。疲れた高齢マウスは静止しているのを好むからである。研究チームは、より年上の15ヶ月のSIRT 6組のマウスじとSIRT 1SIRT 6組のマウスは、夜の最も活動的な時間にさらに走ることを発見した。長距離を走るマウスというグループでは、SIRT 6タンパク質のレベルが高くなったが、SIRT 1レベルを上げるだけではこのような結果は得られなかった。コーエンたちは、より高いSIRT 6レベルが高齢マウスの虚弱度が低下することを明らかにした。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34050173/ SIRT 6タンパク質のレベルが上昇している高齢の遺伝子組み換えマウスは、運動量は若いマウスとほぼ同じくらい走っている。SIRT 6が健康寿命を延長でき、虚弱を緩めることを示している。カラーラインはマウスが一日に二日間ホイールを走った平均距離を示している。異なる色はSIRT 1SIRT 6またはSIRT 1SIRT 6SIRT 1+6)タンパク質のレベルが上昇する遺伝子組み換えマウスを表す。左の図は若いマウスの結果で、右の図は年寄のマウスのを示している。SIRT 6タンパク質のレベルを上げると、若いマウスと同様に、年寄のマウスのランニング距離が大きく向上した。

SIRT 6は肝臓を刺激してエネルギーを生成する。

増加したSIRT 6タンパク質レベルがマウスの健康状態と寿命を著しく延長できることを明らかにした後、コーエンたちはこれらの利点を解釈する生理メカニズムを解明しようとした。エネルギー生産に関与する遺伝子とタンパク質レベルの活性を測定することによって、コーエンと同僚は、SIRT 6が老年でNAD+を使用した代謝経路を維持していることを見出した。この研究では、老化につれて、肝臓でグルコース糖とともにエネルギー(ATP)を生成する代謝経路が悪化していき、エネルギーの恒常性が乱れていることがわかっている。年が取るにつれて、肝臓内のSIRT 6レベルが高くなれば、エネルギー生産が増えて、ATPやグルコース糖のレベル、そして、脳機能に使われるグルコース糖のレベルが維持される。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34050173/ SIRT 6タンパク質の生成は、NAD +を必要とするグルコースと細胞エネルギー生成経路を保存することによって寿命と健康範囲を改善する。SIRT 6タンパク質の生成がNAD+レベルを維持し、トリカルボン酸サイクル(TCA)を刺激し、肝臓におけるATPとして細胞のエネルギーの産生を促進することを示している。それはまた、脂肪組織と筋肉中のグルコース糖の前駆体であるグリセリンや乳酸の放出を刺激して、脳のエネルギーであるグルコース糖の生成(糖新生)を促進する。

このSIRT 6刺激のカスケードは、老齢の肝臓のグルコース糖を維持して、エネルギー生産を促す。

どのようにSIRT 6遺伝子を人間の老化に適用するか?

細胞のエネルギーとグルコース糖の生産量を有意に増加させることによって、SIRT 6は寿命を延ばす低カロリーの食事である断続的に絶食と同じような生理反応を刺激した。コーエンたちはこれらの発見に基づいて健康な生命を延長する方法を探しようとしている。

ソース

Roichman A, Elhanati S, Aon MA, Abramovich I, Di Francesco A, Shahar Y, Avivi MY, Shurgi M, Rubinstein A, Wiesner Y, Shuchami A, Petrover Z, Lebenthal-Loinger I, Yaron O, Lyashkov A, Ubaida-Mohien C, Kanfi Y, Lerrer B, Fernández-Marcos PJ, Serrano M, Gottlieb E, de Cabo R, Cohen HY. Restoration of energy homeostasis by SIRT6 extends healthy lifespan. Nat Commun. 2021 May 28;12(1):3208. doi: 10.1038/s41467-021-23545-7. PMID: 34050173.