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NMNはガンと戦う免疫細胞の効果を高める

ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)治療をした抗腫瘍のCAR-T細胞は、マウスの体内において、癌細胞と闘い腫瘍の成長への抑制効果を増強することを示しました。

 

ハイライト

  • NMN治療はCAR-T細胞(抗腫瘍免疫細胞)を180倍まで増殖させ、それと同時に癌細胞を殺す能力も増強します。
  • NMN治療で抗がんCAR-T細胞は、テロメアが長くなり、老化を遅らせるサインを示し、CAR-T細胞の死滅を減少させます。
  • NMN治療をしたCAR-T細胞は、がんのマウスに、より効果的で持続的に腫瘍の成長を抑制えます。

 

我々の免疫系は、体外からの物質を捜し破壊するだけでなく、癌細胞や腫瘍の成長などの体内で問題のある細胞も除去します。しかし、年齢とともに、我々の免疫系は効率が低くなり、細胞に問題が生じ、癌になる可能性が高くなるのです。

免疫系を活性化させるために、CAR-T細胞療法は悪性腫瘍、特に他の有効な治療のない血液癌に対して使われています。同時に、この治療方法のオプションは、T細胞の生存率が低く、癌細胞に対する持続的効果のない場合に限られています。これらの考え方に沿って、研究者は、CAR-T細胞の寿命を高め、がんに対抗する持久力を高める新な方法を探求してきました。

正式発表前の同僚間での評価報告書では、中国の首都医科大学の鐘氏と同僚は、100µMのNMNをCAR-T細胞に投与することで、癌細胞を攻撃する効果と持続性を著しく高めることができることを論証しています。さらに、NMN治療は、テロメアが長くなり、CAR-T細胞の死滅も少なくなるなど、老化を遅らせる特徴的効果を促進しています。

さらに重要なのは、NMN実験的に腫瘍を移植されたマウスにNMN投与したCAR-T細胞を注射すると、腫瘍の大きさが明らかに小さくなったのです。これらの結果は、研究者にNMNでCAR-T細胞を治療することが、癌に対する生存能力と抗癌効果を高める新しい道を指しているかもしれません。

 

NMN治療は抗がん力を促進します

人体のCAR-T細胞の増殖と癌を殺傷する能力に対するNMNの影響を研究するために、研究者は培養液にNALM-6細胞と100µMのNMNを投与したCAR-T細胞を投入しました。NALM-6細胞は血液癌の細胞状態を模倣する白血病細胞株です。研究チームは、培養28日後に、NMN処理された細胞で、CAR-T細胞の数がNMN処理されていないもののほぼ180倍となり、対照的にNMN処置をしていない方のCAR-T細胞はほとんどが死滅していたという結果を得ました。さらに、NMN処理されたCAR-T細胞は、NMN処理されていないCAR-T細胞よりも悪性細胞を殺す(溶解する)能力を長く維持していました。これらの結果は、NMNが培養したCAR-T細胞の増殖を促進し、腫瘍殺傷力を強めていることを示しているように思えます。

(Yu et al.,2022|Research Square)NMN治療は抗腫CAR-T細胞を増殖し、抗がん能力を高める。28日間の研究期間で、NMNに処理されたCAR-T細胞の増殖は処理されていないの180倍である。後者は基本的に死亡する(図b)。CAR-T細胞は28日間で100 uMのNMNで4回処理された(0回目は3回目)。第3回目(28日)には、NMNで処理されたCAR-T細胞によって殺された(溶解した)NALM-6白血病細胞は、非NMNで処理されたのと比較して2倍に増加した(図f)。これらの発見は、NMNが培養中のCAR-T細胞の増殖と抗がん能力を高めることを示している。

NMNがCAR-T細胞の老化を遅らせるかどうかを確認するために、鐘氏と同僚は染色体の末端にあるテロメアを拡張するテロメラーゼ酵素の活動をテストしました。テロメラーゼはCAR-T細胞の複製と全体の機能において重要な要素です。しかし細胞分裂、老化および疾患においてその数は減少します。テロメラーゼ活性が低下するにつれて、CAR-T細胞は一般的に死亡または老化、非機能的で、増殖停止(老化)などの症状が現れてきます。それによってCAR-T機能が抑製され、持続的な抗癌能力が弱くになります。鐘氏と同僚はまた、NMNでCAR-T細胞を処理することでテロメラーゼが活性化し、老化したCAR-T細胞が大幅に少なくなることを発見しました。この発見は、NMNがテロメラーゼを活性化し、培養中の老化したCAR-T細胞を減らすことによってCAR-T細胞の寿命と効果を延長することを実証しました。

(Yu et al.,2022|Research Square)NMN治療はCAR-T細胞の染色体末端(テロメア)の低下を著しく遅らせ、老化を緩和した。28日間の間に、CAR-T細胞を100µMのNMNで4回処理し(0回目から3回目)、処理されなかったCAR-T細胞と比較して、テロメアの悪化が緩和された(図c)。28日後、NMNに処理された後、培養した老化CAR-T細胞(β-ガラクトシダーゼのは青い)の数はNMN処理されていない細胞の約半分である(図d)。これらの結果は、NMNがCAR-T細胞の寿命を延ばすことを示している。

 

NMNで処置されたCAR-T細胞はマウスの腫瘍の成長を抑える

鐘氏たちは次にNMN処置されたCAR-T細胞が、どのような影響をマウスの腫瘍に与えるのかを探りました。彼らはまずマウスにNALM-6白血病細胞を注入し、マウスのがんモデルを生成してから、NMNで処理されたCAR-T細胞を注射しました。研究チームは、NMN処置されたCAR-T細胞が、腫瘍を持続的に抑製することを発見しました。マウスの癌のモデルが示すように、これらの発見はNMNがCAR-T細胞の抗がん能力を促進するという説をさらに支持する結果となっています。

(Yu et al.,2022|Research Square)NMNで処理したCAR-T細胞はマウス腫瘍を抑製した。マウスにヒトNALM-6白血病細胞を注射して腫瘍の成長を促進した。その後、マウスには何の治療も行わず(NT)、NMNのないCAR-T細胞(CD 19 CAR-T)とNMN処理のCAR-T細胞(CD 19 CAR-T+NMN)をそれぞれ注射した。28日後、NMN処理を受けたCD 19 CAR-T細胞のマウスは、より低い腫瘍放射度に示されるように腫瘍負荷は低かった(図bとd)。NMNで処理されたCD 19 CAR-T細胞も、28日後のより低い腫瘍負荷によって示されるように、効果がより持続的になる。

 

NMNは長寿に関連するSirt 1遺伝子を刺激する

NMNがどの遺伝子を刺激するのかを見つけるために、鐘氏と同僚は遺伝子活動の分析をし、NMNが細胞の寿命に関連するSirt 1遺伝子の活性化を促進したことを発見しました。NMN処置されたCAR-T細胞において、Sirt 1活性の増加は細胞の死亡と炎症関連遺伝子の活性化の減少との関連性を認めました。Sirt 1が遺伝子に関係した細胞死の発生を抑製する役目があると考えられたため、これらの発見はNMNがCAR-Tの抗腫瘍効果を促進するという細胞メカニズムに手がかりを与えてくれる結果となりました。

 

NMNが刺激する正確な細胞メカニズムを確認する

鐘氏らはその論文で、「本研究では、NMNがSirt 1をより良く制御することで細胞の若返りと増殖を実現し、NMNがCD 19 CAR-T細胞の寿命を延ばしと抗腫瘍効率を向上させることができるという説に大きな自信を与えた“と述べました。

本研究はCAR-T細胞癌免疫治療におけるNMNの潜在的な臨床応用の可能性に光を当てることとなりました。NMNの応用により、人体のCAR-T細胞はより活性化し、より高い癌細胞の殺傷能力を持つことになるのです。これらの発見は、NMN処置されたCAR-T細胞を注射することで腫瘍成長を減少させるというマウスの癌のモデルにも適用され、NMNがCAR-T治療を促進する鍵であるかもしれないということを物語っています。

今後の研究では、NMNがどのようにCAR-Tの活性、寿命、抗がん力を促進するかという精密な細胞メカニズムを明らかにする必要があります。NMNが細胞に与える影響を詳しく理解することは、研究者がNMNの影響する他の経路も正確に拾い出し研究するための道を開くのではないでしょうか。このようにして、癌と戦うCAR-T細胞を改良する、より多くの識見を得るかもしれません。

この研究は、どのようにNMNがCAR-T細胞を一気に働かせることによって免疫系のシステムを若返らせるかについての識見を与えてくれます。免疫系システムは年齢とともに衰えていきますので、NMNは癌に対する予防策として用いられるということも可能なのです。

参考文献

Zhen Yu, Shuai Tong, Can Zhang et al. Nicotinamide mononucleotide enhances the efficacy and persistence of CD19 CAR-T cells via NAD + –Sirt1 axis, 19 April 2022, PREPRINT (Version 1) available at Research Square [https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1483519/v1]