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NMN、メトホルミン、ラパマイシンは加齢による認知障害を緩和する

加齢による認知障害のマウスモデル実験において、アンチエージングとしてのNMN、メトホルミン、ラパマイシンは、脳損傷を予防し、記憶障害を緩和するという結果を示しました。

 

 

ハイライト

  • 血管性認知障害(VCI)のマウス実験でのNMN、メトホルミン、ラパマイシン治療は、学習能力と記憶力を改善させます。血管性認知症とは、アルツハイマー病に次ぐ第二の認知障害に至る原因です。
  • これら三種の製剤はVCI特有の血流量不足による脳損傷を減らします。
  • NMN、メトホルミン、ラパマイシンを用いた治療は、ミエリンと呼ばれる私たちのニューロンをより早く活性化させる脂肪組織の退化を防ぎます。

 

ほとんどの場合アルツハイマーだけが認知障害の原因として報じられている中、2番目の原因がVCIであることはごくわずかの人にしか知られていません。VCIは、心臓疾患や高コレステロール疾患により脳への血流が妨げられることで引き起こされます。この状態が認知障害へと徐々に導き、脳機能の悪化により自分自身で日常のことに対処できなくなっていくのです。

VCIはアルツハイマーと同様にすでに広く確認されていますが、VCI自体を防いだり、またはその進行を遅らせたりするような治療法は今のところ何もありません。 

 

北テキサス大学のキム氏と同僚の研究者達が『Frontiers in Neurology』に、ある実験結果を紹介しました。それは実験的にマウスの脳への血流量を減らしてVCIによる認知障害でやせ細った状態を疑似的に作るというものでしたが、その処置として、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、メトホルミン、ラパマイシンを投与しておくとどうなるかというものでした。研究チームは、3個のアンチ・エイジング分子を併用した治療で、VCIマウスの脳損傷が軽減されたという結果を発表しました。さらに、これらの3つのアンチエイジング分子を混合した化合物を投与したマウスでは、ミエリン分解の発生が低減されたのです。これらの発見は、NMN、メトホルミン、及び

ラパマイシンを用いた治療が、VCIによる認知低下を防ぐ可能性を示唆する心躍る証拠となりました。

 

脳の血流を減らした後でも、アンチエイジング化合物が認知能力の維持に貢献

キム氏と仲間の研究者たちは、NMN、メトホルミン、ラパマイシンのVCIへの影響を調べるために、マウスにアンチエイジング化合物のひとつを14日間前もって投与し、その後マウスをVCIの状態に見導くために、脳への血流を遮る実験をしました。研究者たちは、アンチエイジング化合物がVCIによる認知障害を改善できるかどうかを見極めるために、モリス式水迷路を用いてマウスの学習と記憶能力を計測しました。マウスは水迷路の中で泳ぎ続けなければならないという状態から脱出するために、水中プラットフォームを見つけるなければなりません。マウスはそのためのトレーニングを4回受けました。アンチエイジング化合物を前処理したラットは、プラットフォームのある領域に明らかに長く留まっており、これはプラットフォームの位置がどこかの記憶が改善していることを示しています。これらの発見は、NMN、メトホルミンまたはラパマイシンが、VCIのような脳への血流の滞りで起こる認知状態を回復することができることを示しています。

 

(yu et al .、2022 | frontiers in neurology)NMN、メトホルミン、ラパマイシンは脳への血流量が減少した後の認知障害予防することができる。モリス水迷宮実験では、健康マウス(Sham)と両側頸動脈の閉塞を受け、VCI (2VO)をシミュレートしたラットで行われた。未処理の2VOマウス(Veh)では、プラットフォームのターゲット領域を見つけるのにかかった時間が明らかに減少し、記憶力が損なわれていることを示している。脳血流を減少させる前に、マウスにNMN、メトホルミン、ラパマイシンを14日間投与すると、プラットフォーム領域を覚える能力障害を防ぐことができる。

 

キム氏と仲間の研究者たちは、これら3つの化合物が認知維持効果を引き出す細胞メカニズムを解明するために、多数ある脳の病変を調査しました。研究者たちは、あまたある脳の病変の半分以上について治療法を発見しました。これらの病変は脳の一部エリアの損傷であるため、その広がりを抑え込むことで脳の組織が正常に機能する状態を維持し、認知能力が回復していく状態にするということを示しています。

 

 

 (yu et al .、2022 | frontiers in neurology)NMN、メトホルミン、ラパマイシンは脳損傷を予防することができる。2VO治療を受けていないマウスに比べて、シャムラットでは、脳の中で軸索(白質)が最も多い部位の病変が少なかった。NMN、メトホルミン、ラパマイシンfを用いた治療は、存在する白質病変の数を半分に減らすことができ、これはアンチエイジング化合物がこのような形の脳損傷を防ぐことができることを示している。

 

 

キム氏と仲間の研究者達は次に、白質を構成する脂肪組織(ミエリン)を調べて、アンチエイジング化合物がどのように白質の損傷を減少させるかを調査しました。ミエリンは電気信号を超高速で伝播させ、脳を瞬発的に動かすのに欠かせないニューロンの軸索を包み込んでいます。この3つのアンチエイジング分子をマウスに投与すると、著しくミエリンの分解を少なくすることを経験しました。これらの結果は、ミエリン分解を減らすことにより、白質が保たれ、脳機能が改善し、その結果、認知能力が向上することを示しています。

 

(yu et al .、2022 | frontiers in neurology))NMN、メトホルミン、ラパマイシンはミエリンの分解を防止できる。髄鞘を分解する脳免疫細胞ミゼラチン(CD68+Iba1+)の数を測定した。シャムラットと比較して、2VO治療を受けていないマウスの飲み込まれた髄鞘が明らかに増加した。メトホルミン、ラパマイシン、NMNは髄鞘を飲み込むミゼラチンの数を半分以上減少させたが、この3つのアンチエイジング分子がミゼラチンの髄鞘への分解を減少させたことを示している。

 

 

NMN、メトホルミン、ラパマイシンは同じような作用経路でミエリンの除去を抑制する

どの分子の影響が、どのようにNMN、メトホルミン、レパマイシンが血流不足の脳組織に作用しているのかの疑問には、まだ全く答えが見つかっていませんでした。

これまでの研究では、ラパマイシンは、哺乳類標的ラパマイシンタンパク質(mTOR)が、ミクログリンを分解モードにするのを抑制することが示されています。同様に、メトホルミンは、mTORの働きを抑えるAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)を刺激し、同様の作用を引き起こします。NMNはSirtuin1タンパク質を刺激し、AMPKを活性化させてmTORの活性化を抑制し、さらにミゼラチンの活性化も抑制します。これらの理由から、VCIをシミュレートした条件下では、これら3つすべてのアンチエイジング化合物は、いずれも類似した作用経路によって健康なミエリンの分解を抑制しています。

これら3つの化合物より効果のある化合物は一つもないので、コスト分析によってこれら3つの化合物のうち、どれが最も費用対効果があるかを計算してみることができます。

メトホルミンの1か月当たりのコストは約13.72ドルであるのに対し、ラパマイシンの1か月当たりのコストは約100ドル、NMNの1か月当たりのコストは約50ドルです。ラパマイシンとメトホルミンは両方ともmTORを阻害しますが、メトホルミンには通常2型糖尿病薬として規定されているため、グルーコス代謝を調節する追加の利点があります。ラパマイシンとメトホルミンに比べNMNは、sirtuin蛋白質を刺激することで有害な細胞酸化ストレスに対抗し、同時にAMPK蛋白を活性化してミトコンドリア機能を促進、さらにmTORを抑制するため、より幅広い有効性を持ち合わせているということができます。

 

ソース

Yu M, Zheng X, Cheng F, Shao B, Zhuge Q, Jin K. Metformin, Rapamycin, or Nicotinamide Mononucleotide Pretreatment Attenuate Cognitive Impairment After Cerebral Hypoperfusion by Inhibiting Microglial Phagocytosis. Front Neurol. 2022 Jun 13;13:903565. doi: 10.3389/fneur.2022.903565. PMID: 35769369; PMCID: PMC9234123.