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NMNで太ったマウスの代謝回復

 

日本人研究者は、腸内のNAD+レベルがインスリン分泌とブドウ糖の代謝作用を維持するのに重要であると発表しました。

ハイライト:

  • マウスの腸内細胞からNAMPT(NMNを合成する酵素)を除去すると、インスリン反応が止まり、血糖値が上昇します。
  • 肥満のマウスもまたこの現象を示し、NAD+レベルの低下がインスリンの分泌やブドウ糖の調整を機能不全に導いてしまいます。
  • マウスの水にNMNを加えると、NAMPTの削除や肥満によって引き起こされた代謝作用の障害は反転し改善されました。

アイスクリームを食べたり、キャンディをたくさん食べたりした後、腸内ではインクレチンという信号が送られ、インスリンにすべての糖分を掃除してしまうように指令が出ています。インクレチンは腸内細胞から放出されるホルモンの一種であり、より多くの糖分はより多くのインクレチンを放出させるというブドウ糖依存様式を持っています。インクレチンの調整が悪いと、インスリンの分泌やブドウ糖の適度な働きが損なわれ、しばしばそれが肥満をもたらす原因となります。インクリチンの制御が良いと、広範囲に体調への好影響をもたらします。

慶應大学医学部とセントルイスワシントン大学医学部の研究者らは、NAD+は、最も重要な腸内インクレチンの一種で、GLP-1 (ブドウ糖―ペプチド1)と呼ばれ、これが糖分への反応で、インスリン分泌量と血糖レベルの調節をしていると発表しました。

『Endocrinology』に発表されたこの研究によると、マウスの実験で、肥満が腸内細胞のNAD+レベル及びGLP-1の生産量を減少させ、血糖レベルを大幅に上昇させることを明らかにしました。これと同じ現象は、肥満でなかったマウスにおいても、腸壁内の細胞にNAMPT(NAD+の前駆体NMNを統合した酵素)が欠乏すると、同じように再現されました。肥満のマウスにおいても、また腸壁内細胞にNAMPTが靴棒したマウスにおいても、NMN(500 mg/kg/日)を含む水を与えると、腸管NAD+レベル、GLP−1の発出量、およびブドウ糖の代謝が回復していくことはわかりました。

「まとめると、我々の研究は、肥満が引き起こす食後の高血糖やGLP-1発生の機能不全と、腸内でのNAD+の働きを関係付けて、反応機構的及び治療的に生かすための洞察となっております。」と研究者の長久氏とその仲間は述べました。

(Nagahisa et al.,2022| Endocrinology )NMNは肥満マウスにおけるNAMPT媒介NAD+生合成欠陥によるGLP−1生成障害を改善した。(左) 高脂質食 (HFD)の投与は、マウスの肥満を誘発し、NMN (灰色)または水(黒)を10日後に摂取した後のブドウ糖レベルを測定した。(右)同一マウスの血液中GLP-1活性濃度。画像は、NMNがブドウ糖を投与したHFDマウスにおいてGLP−1レベルを上昇させ、血液中のブドウ糖レベルを低下させることを示している。

GLP-1はブドウ糖レベルを抑制する

肥満は高血糖値(高血糖)を伴うことにより、心血管系の疾患を引き起こす重要な予測要因となります。例えば二型糖尿病、や非アルコール性脂肪肝疾患がそうです。

高脂質食をマウスに与えると、GLP−1を発生する腸内細胞「L細胞」が減少し、GLP−1濃度の低下および食物に対する高血糖反応を引き起こします。

さらに、人体の研究からのわかってきたことは、栄養分によって誘導されたGLP−1反応の変化は肥満や代謝機能障害、例えば高血糖症に関連していることを明らかにしました。たとえば、肥満やブドウ糖不耐性患者のGLP−1反応は、健康な痩せた被験者に比べてはるかに低いのですがしかし、肥満患者にはGLP−1分泌が増強される、または影響を受けないという矛盾した証拠もあります。一方、ダイエットでの体重減少はGLP-1反応を高め、肥満者の高血糖を改善するともわかってきました。

マウス腸内のNAD+生合成によるGLP‐1発生とブドウ糖の代謝作用

以前の研究報告では、NAMPTの抑制は細胞培養液の中のGLP-1分泌を低下させると報告されていたので、長久氏と同僚は、インクレチンの発生と全身のブドウ糖代謝を含む腸内の完全な状態を保つための、NAD+の生合成された腸内NAMPTの役割に焦点を絞りました。彼らの考えでは、腸内のNAD+はGLP−1の発生を調節する上で不可欠な役割を果たすというものです。したがって、NAD+の生合成された腸内NAMPTに欠陥があると、肥満による高血糖症の進行をすすめてしまう可能性があります。

これをテストするために、長久氏と同僚は腸壁の上皮細胞から剥がしたNAMPT遺伝子と分子の分泌物に栄養分、水分、ホルモンを融解させ、マウスを作りだしました。これらの遺伝子が改変されたマウスはGLP−1やインスリン分泌が減少し、高血糖症の症状も示しました。さらに、高脂質食(HFD)によって肥満となったマウスにおけるNAMPTの媒介で作った腸内NAD+生物合成の変化についても評価しました。痩せたマウスに比べて、HFDで飼育された肥満マウスの腸内NAMPT遺伝子の活動とNAD+レベルは、GLP−1の発生の欠陥とブドウ糖代謝作用の欠陥によって、著しい低下が見られました。

最後に、遺伝子が改変され、さらに食事によって肥満になったマウスにおいて、NMNの投与はGLP−1発生量の増加と高血糖の低下がはっきりと現れ、腸内のNAD+レベルと肥満に関連する代謝障害が回復しました。まとめると、これらのデータは、GLP−1生成および正常なブドウ糖の調節をよって作られるNAMPT媒介腸内NAD+生物合成が、重要な役割を果たしていることを示しており、且つまた、これらの肥満による代謝異常には、NMNが治療としての潜在的な可能性をもっていることを明らかにしました。

NMNとブドウ糖代謝作用の臨床試験

興味深いことに、NMNは膵臓におけるインスリン分泌を直接に誘導し、GLP−1に依存せずにグルコース代謝を改善できると報告されています。例えば、NMNの注射は、HFDと老化によって誘発された糖尿病マウスが高濃度のブドウ糖摂取をした際にインシュリンの分泌を増やしました。さらに、NMNは膵臓内のインクレチンに依存しない島細胞からのインシュリン分泌を刺激しました。これらの結果は、インクレチン依存した場合も、また独立した経路にも、同時に影響を与えるため、食後のブドウ糖代謝の改善にNMNが有効であるということに強く光を当てています。

さらに、GLP−1の発生を増やす目的のために、マウスにNMNの経口投与を実施した結果と比較するために、Dollerupおよびその同僚は、同様の目的のためにマウスおよび非糖尿病患者に、ニコチンアミドリボサイド(NR)、もう一つはNAD+中間体を経口投与する研究をしましたが、GLP-1の増加に影響を与えることはありませんでした。

NMNとNRの2つの重要なNAD+中間体間でGLP−1の発生に差が生じるメカニズムの説明はまだ不明な部分もありますが、小腸で高レベルに発現するNMN輸送体Slc 12 a 8の存在に関係する可能性があるのではないかと思われます。

これらの理由にから、長久氏と同僚は、NRではなくNMNを経口投与すると、小腸内のNMN輸送タンパク質から腸内のNAD+合成が促進され、その結果GLP−1が生成されるという推測しています。これらの研究は、ヒトのインスリン分泌とブドウ糖代謝作用にNMNがどう影響を及ぼすかの研究をする道を開いており、心血管疾患、二型糖尿病、非アルコール性脂肪肝疾患のリスクを持つたくさんの人にとっても朗報と言えます。

現在、米国ミズーリ州セントルイスのワシントン大学医学部の吉野氏と同僚は、NMN(300 mg/日、16週間持続)が心血管と代謝機能に及ぼす影響、特に糖尿病と心血管疾患の重要な危険因子に関しての臨床試験の治験者を募集しています。この試験では、高い糖分を摂取した後の血糖値の測定のように、本文で紹介した実験とよく似た実験を実施します。この臨床試験は2025年秋までに終わるように計画されています。この臨床試験でのNMN用量は、ヒトに安全といわれる許容量よりもかなり少ない設定がされていますが、それでもNMNがヒトの健康に極めて有用であるかどうかという理解に関する議論へ目立った変化を起こす可能性を秘めています。

ソース

Nagahisa T, Yamaguchi S, Kosugi S, Homma K, Miyashita K, Irie J, Yoshino J, Itoh H. Intestinal epithelial NAD + biosynthesis regulates GLP-1 production and postprandial glucose metabolism in mice. Endocrinology. 2022 Feb 26:bqac023. doi: 10.1210/endocr/bqac023. Epub ahead of print. PMID: 35218657.

Dollerup OL, Trammell SAJ, Hartmann B, Holst JJ, Christensen B, Møller N, Gillum MP, Treebak JT, Jessen N. Effects of Nicotinamide Riboside on Endocrine Pancreatic Function and Incretin Hormones in Nondiabetic Men With Obesity. J Clin Endocrinol Metab. 2019 Nov 1;104(11):5703-5714. doi: 10.1210/jc.2019-01081. PMID: 31390002.