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NAD+が神経系的欠陥を持つ動物へのDNA修復によりヘルススパンと寿命を増加させる
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毛細血管拡張性運動失調症(A-T)とは、協調性のない動き、放射線高感受性、小脳の萎縮などを特徴とするまれな遺伝疾患である。この疾患は、両親から1つずつ、1対の欠陥遺伝子を受け継いだ人に発症する。
毛細血管拡張性運動失調変異(Ataxia-Telangiectasia Mutated、ATM)遺伝子は、通常では細胞の成長と分裂を調節するが、その欠損が細胞の異常死につながり、A-Tを引き起こす。一般的に人口の0.5%~1%のヒトは、この遺伝疾患を引き起こす形態のコピーを1つ持っている。その結果、がんや加齢に伴う疾患のリスクが高くなる。現在、この遺伝子を持つ患者やキャリアに対して、治療法も特別な介入もない。
A-T患者の細胞においてニコチンアミド·アデニン·ジヌクレオチド(NAD+)しベルが低い。NAD+は、代謝、幹細胞の若返り、神経保護、長寿において重要な細胞分子を構成する。2016年に、A-Tを持つ動物へのNAD+補充効果に関する研究が始まったばかりだ。
ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアからの国際科学者チームは、NAD+の回復が神経系的欠陥の重症度を低下させ、この疾患があった動物の寿命とヘルススパンを改善させることを発見した。Cell Metabolism誌2016年号に掲載された彼らの研究は、NAD+がDNA修復とミトコンドリア(細胞の発電所と言われる)の健康を刺激するという良い効果ことを示している。
ATM遺伝子が削除または減少された動物を対象として、研究チームは、マウスと回虫とラットのニューロンを研究した。また、NAD+ブースターであるニコチンアミドリボシド(NR)でNAD+を補充すると、ATM遺伝子が低下したラットのニューロンにおいて、シグナル伝達及びミトコンドリアの全体的な健康状態が改善されることを研究で明らかにした。ATM遺伝子の活性が低下したニューロンをNRで治療すると、アポトーシスとして知られるDNA損傷と細胞死が減少した。
科学者らはまた、ATM遺伝子活性が低下した回虫を研究し、NR治療がDNA修復を促進することを発見した。実験では、これらの回虫を電離放射線にさらすことで、その子孫数が40%減少したことが明らかになった。しかし、NR治療を受けた回虫は、放射線を照射させても、発生の後期段階である胚発生期でその生存率41%から79.6%に上昇した。この段階では、特定のDNA修復経路である非相同末端結合経路のみが、放射線によるDNA切断を修復できる。研究者らは、こはNR治療が電離放射線を通じてDNA修復を促進することを実証したものと考えられた。
ATM遺伝子を持たないマウスでは、NAD+の補給によりヘルススパンが改善される。ATM遺伝子が削除されたマウスは、一般のマウスに比べて小脳にNAD+が40%も減少していた。しかし、飲用水にNRを投与すると、NAD+レベルがほぼ正常値に戻った。さらに、ATMのないマウスは、認知機能を評価する迷路テストでは一般のマウスの半分しか機能しなかった。しかし、NR治療後、彼らは一般のマウスと同様に機能し、ヘルススパンの重要な要素である認知機能の改善が示された。また、ATM遺伝子が削除されたマウスにNRを投与した結果、寿命が大幅に延長された。ATM遺伝子を持たない動物は150日前後に死亡するが、NR治療を受けた動物の約80%は150日以上生きている。

(Fang et al., 2016 | Cell Metabolism) 

上図は、NRを補充しなかったATMノックアウトマウスは、生後150日目頃の生存率がゼロであることを示している。NRを補充したATMノックアウトマウスは、生後150日目頃で約80%が生きていた。結果から見れば、NRはATMノックアウトマウスの生存率を顕著に向上させていることがわかる。
「要約すると、私たちの研究結果ではNAD +の枯渇が重度の神経変性を誘発する可能性があることを示唆している。」と著者らは述べた。「NAD +の補給がA-T患者への臨床治療にどれほど役立つかはまだ分からないが、私たちの発見はこの疾患又はDNA修復欠損に伴う他の早期老化障害と戦うための新たな治療戦略を示唆している。」 NAD +レベルを高めるサプリメントを投与することで、これらの神経系的欠損の治療に一つオプションを提供できる。

出典
情報源:
Fang EF, Kassahun H, Croteau DL, et al. NAD+Replenishment Improves Lifespan and Healthspan in Ataxia Telangiectasia Models via Mitophagy and DNA Repair. Cell Metab. 2016;24(4):566-581. doi:10.1016/j.cmet.2016.09.004.
参照論文:
Lavin MF, Gueven N, Bottle S, Gatti RA. Current and potential therapeutic strategies for the treatment of ataxia-telangiectasia. Br Med Bull. 2007;81-82:129-147. doi:10.1093/bmb/ldm012.
Mateo J, Carreira S, Sandhu S, et al. DNA-Repair Defects and Olaparib in Metastatic Prostate Cancer. N Engl J Med. 2015;373(18):1697-1708. doi:10.1056/NEJMoa1506859.
Shiloh Y, Ziv Y. The ATM protein kinase: regulating the cellular response to genotoxic stress, and more. Nat Rev Mol Cell Biol. 2013;14(4):197-210. doi:10.1038/nrm3546.